天才の思考回路「天才柳沢教授の生活」

描いた漫画家さんは山下和美さん。ご自身にとても近いご身内に大学教授がいらっしゃるそうでそのせいか、フィクションなのにどこまでフィクションと言えるんだろうかと思える程度にある意味臨場感をもって描かれている傑作です。

主人公である柳沢教授のどこまでも規格外の日々はある意味人生そのものへの含蓄に富んでいます。ある時は教授は運転免許を取得しようとし、ある時は幼稚園児の孫娘とただデパートに買い物に行き、またある時は町内運動会に出席します。旅行に行き、旧友に会い、教授ですから研究書を読み、講義します。どこまでも日常的なはずのこうした行いは教授の尺度で当たった場合にはいったいどうなってしまうのか。

一口にいうならエキサイティングです。こんな切り口もあったのかと思うような思いがけない展開が繰り広げられていきます。毎日がこんなにいちいち大冒険じゃ大変じゃないのかなと思えるほどに大変な様子なのですが、あくまでもどこまでも教授は全くマイペースに探求の道を探り続けているだけにすぎません。

「経済学とは人と人との関係性の学問である」。その教授の信念に基づいてその観察と研究の結果が読者にもたらされます。「研究対象は日常そこらじゅうにあふれかえっており、研究に集中したいのであって、したがって必ず夜9時には就寝しなくてはならない」。そういって教授が寝てしまった後に、大どんでん返しがあったりもします。就寝時間の厳守は絶対に外せないポイントなのです。

教授の人柄はかたくなそうでいて実は柔軟であり交際範囲も広いため、登場人物の誰もかれもがそれぞれ己の個性を主張しながら現れます。家族にせよ友人にせよ個性派ぞろいでそれぞれがそれぞれに日常的でありながらドラマチック。教授を通じまたは教授を交差点にしながら展開されるそれぞれの生活から「人という存在の面白さ」がそこここにあらわれます。

教授はY大学の経済学部教授です。設定から行くといかにももしかして横浜にあるあの国立大学なんじゃないのかなと思えなくもない感じのある種の生活感や現実感をギリギリ残して描かれています。